No.003「第3話:新しいトレーニングの方法で気づいたこと」



今回のお話は私が高校3年生の頃、新しい責任者としてあらわれた生重さんが行っていた新しい型破りなトレーニング方法(現場教育)のお話しです。

当時、私の所属していた部署でのトレーニング方法は、3日間の現場トレーニングの中で、パレードが行われていない時間帯に、ロープ巻きの練習や基本的な作業の仕方から、このパークで働くにあたってのスピリットなどを教わります。

そして、パレードの時間となれば、新人スタッフは先輩スタッフに連れ添って、各ポジションにはいり、今まで教わったことを現場で実践して覚えていくという形で行われていました。

もちろんそこには、順序や細かな時間などが明記された、きちんとしたトレーニングスケジュールが存在し、3日間のスケジュールの中で、効率良く教育を受けることになります。そして全員がトレーニングの最終日に、知識としてのチェックリストを行い、見事ひとり立ちをするという形で行われていました。

その中で私たちキャプテンとなるスタッフの職責は、トレーニングがスムーズに進むようにフォーローしたり、実演などの役割です。

ちなみに、新しい責任者としてあらわれた生重さんも同じようにスタッフとしてのトレーニングを受け、スタッフの各ポジションを1週間程度行った後に、約2週間の責任者トレーニングを経て、責任者としてデビューするのです。

【振り返ると、このように新しく変わった現場責任者であっても必ず担当するセク
 ションのスタッフトレーニングを受け、各スタッフのポジションを経験した後
に責任者としてのトレーニングが開始されて責任者としてデビューする体制であ
ることは、当時は当たり前のように感じていましたが、今となっては、同じよう
にしている企業って多くないですよね……】

生重さんが責任者となり、はじめての新規スタッフトレーニングが行われた、春のことでした。当時私を含め、このセクションには約8名前後のキャプテンがいました。

その8名が業務終了後に生重さんに呼び出されます。

「今度の春に入ってくるスタッフのトレーニングだけど、いままでとはちょっと違
う方法でやってみようと思う」
「違う?……」(一同)

「具体的には、もっとパレードのことを知って、もっとゲストに喜んでもらいたい
から」

「はぁ!?」

「詳しくは明日お願いするとして、今日帰ったらパレードのことをもう一度詳しく
復習してきてほしいんだ。ストリーとか、各フロート(パレードのだしのこと)
の名前など……。」

こんな会話を受け、頭に?マークいっぱいの私たちは、明日のトレーニングの方法を想像しながら帰宅しました。

そして次の日、私たちキャプテンと生重さん、そして6人の新人スタッフで早速トレーニングの開始です。昨日生重さんが「ちょっと違う方法で」と言っていましたが、いつもと変わらずトレーニングがスタートします。

そしていつもどおり夜のパレードが始まる前に、6人の新人スタッフに一人ずつキャプテンが付き添います。他のキャプテン2人は、当日のキャプテン業務を行います。

ここで新人スタッフにつくキャプテンが集められ昨日の「ちょっと違う方法」を説明されました。

「昨日言ったとおり、ここからちょっと違う方法で、トレーニングを行ってほしい
んだよ!!」
「どうやるんですか?」

「う〜ん。今まではこれからパレードが終わるまで、キャプテンのみんなと一緒に
ポジションに入るよね。今回は、ポジションに入らずに、パレードが到着した
ら、橋の両側に別れてパレードを楽しく説明しながら、新人スタッフに見せてあ
げてほしいんだ!!」

「パレードを見せる!! ……ですか?それじゃぁ仕事にならないじゃないっす
か?」
「いや、パレードを見ることも大切な仕事なんだよ!!とりあえずやってみてく
れ!!」

「わかりました」と返事をしたものの、私たちキャプテンの中では、「何で仕事中
にパレードを見せなきゃいけないんだよな」「あの人まだ新しいから、俺たちの仕事がわかってねぇんだよ。」などと半分納得しないまま、言われたとおり行うことになりました。

当然新人スタッフは、ゲスト(お客さん)よりもいい場所でそれも細かい解説つきでパレードが見られるのですから大興奮です。

普段私たちスタッフがゲストにパレードを説明するように、新人スタッフにも説明します。

「ほら、ここからが不思議の国のアリスなんだよ。「きのこ」にアリスが乗ってる
でしょ。実はナイショだけど、見ている僕らがちいさくなって、アリスのいる不
思議の国の世界に入っちゃたんだよ!!だから「きのこ」のほうが大きいし、カタ
ツムリや蜂が僕らより大きいでしょう……」

パレードが終了しパレードに使われていた機材の片付けも終わり、終礼が始まります。一通りの話が終わり、生重さんが新人スタッフ全員から今日の感想を発表させました。

新人スタッフは口々に、パレードの素晴らしさや自分の体験した感動を嬉しそうに話しています。全員の発表が終わり、最後に生重さんがこう言いました。

「みなさんの顔を見ると、本当に楽しかったのが伝わって来ました。本当にパレー
ドを楽しむことができてよかったね。これからみなさんは、ここにいるスタッフ
と一緒に、最高のパレード創っていくんだよ。明日からも、たくさんのゲストに
楽しんでもらえるようにがんばりましょう」

そして次の日……。

昨日からスタートしたトレーニングも2日目に入り、新人スタッフも今日からポジションにつくことになりました。私も昨日担当した新人スタッフと一緒にポジションに入ります。

昨日同様、トレーニングのはじまる前に担当キャプテンが生重さんにまた集められます。

「今日は、新人スタッフにポジションに入ってもらうのだけど、パレードが始まっ
たらそのポジションの職責は、全部君たちがやってほしいんだ!!」
「えっ何で? ……昨日もポジションやんなくて、今日も何もしなくて良いんです
か?」

「何もさせないわけじゃないよ。新人スタッフには、各ポジションでゲストに最初
から最後までパレードをゲストと一緒に見ながら説明してもらうんだ。だから、
パレードが始まって終わるまでの間だけは、皆にそのポジションをカバーしても
らいたいんだよ!!」
「そしたら、トレーニングになんないじゃないっすか?」

「まぁとにかく、安全上必要なことは必ず教えてやらせてほしい。ただ、パレード
の最中は新人スタッフにパレードをゲストに説明しながら見ることに集中させて
くれ。パレードが始まる前に皆のポジションに回るからよろしくね!!」

昨日に引き続き不満が募ります。「こんなんじゃトレーニングになんねぇよな」「ただ遊ばせておくだけじゃん」「あの人どうかしてるぜ」こんな会話が、私たちキャプテンの中で繰り広げられます。しかし、言われたとおりやってみようということで2日目のトレーニングがスタートしました。

私と新人スタッフが担当するのは、車椅子をご利用の"お客様優先スペース"のポジションです。パレードが始まる前まで、私は新人スタッフと一緒にこのポジションの職責を説明しながら、一緒に業務を行っていました。パレードが始まる寸前に生重さんが私たちのところにやってきます。すると突然、私たちの担当するエリアの家族連れゲストに話し掛けます。

「今晩は!!ようこそ!!パレードをご覧になるのははじめてですか?」
「ハイ。はじめてなんでよ。」
「なるほど、失礼ですがお名前は?」
「山田です。」
「山田さんですね。本日はみなさんどちらからいらっしゃったのですか?」
「愛媛県から孫と一緒に来ました。」

「それは遠いところからありがとうございます。それでは、今日は特別にパレード
のことなら何でも知っている井上さんをご紹介しますよ。」
「井上さん!!こちらは愛媛県からご家族でいらっしゃった山田さんです。今日はこ
の山田さんと一緒にパレード見ながらパレードのことを説明してあげてください
ね。」
「でっでも……」

不安そうな新人スタッフに生重さんがなにやら耳打ちをし、背中をポンと押してあげました。

「それではみなさん、楽しんでくださいね」

そう言い残すと生重さんが私のところへやってきます。

「いいか香取、もし井上さんが困ったりしても、お前が変わるんじゃなくてゲスト
にわからないように井上さんに耳打ちして教えてあげるんだぞ。じゃぁがんばっ
て!!」

いきなりで私も新人スタッフの井上さんもビックリです。だって、入社2日目のスタッフで、いくら昨日パレードのことを教えたからと言ったって……です。
それからパレードが始まり終了するまでの間、私は井上さんに、井上さんはゲストに、必死で説明を行いました。時には言葉に詰まったありするところもありますが、井上さんも一生懸命にゲストへ説明をしてあげます。2人ともパレードが終了するころにはヘロヘロ状態でした。

最後に山田さんファミリーから井上さんと一緒に写真を撮りたいということで、お城をバックに写真を撮ってあげました。山田さんファミリーは大喜び、何度もお礼を言いながら別れ、私たちもパレードの後片付けをすることにしました。

昨日同様、終礼の中で新人スタッフから今日の感想を発表します。みな口々に緊張したことや、お客さんが喜んでくれてほっとしたなどの感想を嬉しそうに話しています。そう言えばこんなに嬉しそうに、話をしている新人スタッフを見たのははじめてのような気がしました。

終礼が終了し、生重さんは私たちキャプテンたちを集めます。

「本当にお疲れ様。どうだった?」
「びっくりですよ。まさか入社2日目のスタッフにあんなことさせるなんて。」(一同うなずく)
「でも、終礼の時の嬉しそうな顔見ただろう!!実は、今回のトレーニングで一番気
づいてほしかったことはあれなんだよ。」
「……」
「俺たちの仕事は、ただパレードの準備をして後片付けするだけじゃないんだよ。
『一緒にパレードを創ってゲストに喜んでもらえる仕事なんだ』っていうことだ
よ。このパークの素晴らしいところは、パレードを見に来てくれたゲストが喜ん
でくれることで、スタッフも喜べる仕事ってこと。人の喜んでいる姿を見て、自
分の幸せにつながる仕事ってなかなかないでしょ。だから、今回の新人スタッフ
には、一番初めに私たちの仕事の素晴らしさを体験してもらいたかったんだ。人
間最初に受けた感動は絶対忘れないから。」

当時の私は、この言葉を聞くまで、ただの「パレード交通整理係り」ぐらいにしか考えていませんでした。だから心のどっかで「所詮バイトで、パレードって言っても踊っているわけじゃぁないしな」と醒めたものがあったのも事実です。

【今振り返ってみても、「従業員が楽しく働ける職場にしたい」と言うお話を多く
 の企業の方から聴きますが、ここまで、「楽しく働くこと」にこだわってやって
みる責任者がいる環境を作れる会社に出遭うことは少ないようです。】

その後、私の考え方が変わったのは言うまでもありません。
だって、人が楽しんでいるところを見て、自分も素直に楽しめる仕事なのですから。この頃からでしょうか、ぼんやりと"仕事"ってどういうものなのかがわかり始めた気がします。

トラックバックURL: http://www.e-storybank.com/mt/mt-tb.cgi/325
2005年06月15日 00:11 |メールマガジン(バックナンバー) |コメント(0)




この記事へのコメント


コメントを送ってください




情報を登録する?