No.009「第8話:一生懸命にやること」



今回は、無事お城の騎士のトレーニングも終わり、アトラクションスタッフとして3ヶ
月位が経過したころにあったお話しです。

無事にトレーニングも終了し、晴れて念願のアトラクションスタッフとなって、日々お
城の騎士として、城内を楽しくガイドしていました。

ガイドは、1日に多い時で、だいたい8周〜10周前後ですが、トレーニングを終えた
ばかりの私にとっては、ゲストの反応がダイレクトにわかるこのアトラクションの仕事
が楽しくて仕方ありません。

また、このアトラクションで最もうまいガイドだと評判だった、先輩の愛原さんとも仲
良くなり、仕事の最中や仕事が終わって帰るときでも、一緒にガイドの話が絶えま
せん。

「愛原さん、どうやったらもっとゲストを笑わせますかねぇ?」
「うーん、そうだなぁ。お前は身体もでかいから、もっとジェスチャーを大きくやっ
 てみると面白いんじゃないの!! それと、顔の表情や間の取り方だよね!!」
「なるほど、ジェスチャーを大きく、表情と間かぁ……」

トレーニングが終わり、ひとり立ちをした私は、ゲストを笑わせようと色んなことを
試していました。今考えると、くだらないストーリーと関係のないギャグ(シャレ)
を言ってみたり……。

しかし、このアトラクションには1つの決まりがあります。

その決まりとは、"アドリブ"です。このテーマパークでは、基本的にアドリブは良し
とされません。ナレーションブックには、このアトラクションで伝えたいテーマをス
トーリーに沿って、ガイドのナレーションとして書いてあります。

従って、勝手にナレーションを変えてしまったり、ナレーション以外の言葉を付け足
してはいけないのです。しかし、当時の私はとにかくゲストに笑ってもらいたかった
し、自分が1番"うまい"ガイドになりたくて仕方ありませんでした。

"アドリブ"はやってはいけないとは聞いていても、そんなものはガイドに出てしまえ
ば、誰もわかるはずがないし、知ってるのは、私と私のツアーに参加したゲストだけ
と考えていました。

だから、私は決まりも守ろうともせず、ただただ「面白ければそれでいい」とガイド
をしていました。

しかし、20分間のガイドを1日に8周〜10周するこの仕事は、身体も疲れ、声も
潰れてきます。変な話ですが、ガイドをしたくて、このアトラクションのスタッフに
なったのに、1日8周で済むならそのほうがいいなぁと、なるべくガイドを回らない
ようにしようとする気持ちもありました。


その気持ちがガイドへの情熱と反比例していくのがだんだんと強くなってきた、3ヶ
月目ぐらいのことでした。

ガイドは、自分とペアのスタッフで交代しながらやっていますから、うまくやればガ
イドを交代して、自分だけ回る回数を減らす悪知恵も働いてくる頃です。

そして、いつものようにガイドをしていると、「このシーンであのギャグを言えば、
大爆笑だ!!」と思ってやってみるものの、反応が今ひとつです。

「まぁ今回のゲストだけだろう」
なんて思いながら、次のガイドの時にもやってみます。

しかし、次のツアーも盛り上がりません。
その次のツアーも……。
うまくやろうとすればするほど、ツアーには冷たい風が……(ヒュー)

今まであんなに楽しかったガイドが、私にとってとても辛く苦しいものに変わってい
きます。だんだんとガイドを回るのが嫌になってきます。

そしてとうとう、何をやっても一向にツアーが盛り上がらず、ガイドを終えた私の耳
入ってきたのは、「なんか、あんまりだったね。」と言うゲストの言葉……。

正直落ち込みました。そして頭のなかでは、「俺の面白さがわからないゲストが悪い
んだ!!」とゲストのせいにしてしまう始末でした。

そんなある日、久しぶりにトレーナーの生重さんに会いました。

「おぉ香取!!どう、だいぶアトラクションにもなれてきたんじゃない?」
「……はぁ」
「どうしたの元気ないじゃん!!」
「……」
「何かあったの?」
「ゲストが笑ってくれないんですよ」
「笑ってくれない? そうか、そいつは困ったね」

そう言いながら、生重さんはその場を立ち去っていきました。
なにかアドバイスをくれるのかと思ったのに……。

そして数日が過ぎ、いつものようにガイドに出ようとする私のところへ、新しいトレ
ーニー(新人スタッフでトレーニングの受講者のこと)を連れて生重さんが現れまし
た。

「香取さん!! 次は香取さんがガイドだよね?」
「あっ生重さん、ハイ次は僕がガイドですけど……」
「そっか、じゃあそのガイド、新しいトレーニーに変わってくれない?」
「あぁ、もちろん良いっすよ」
「ありがとう。じゃぁ香取さんもトレーニーのガイドに一番最後から着いてきてよ」

生重さんのトレーニーにガイドを譲ることになった私は、そのトレーニーがガイドを
するツアーの最後について1周することになりました。ガイド中、生重さんは何も言
わずにずっと私と一緒にツアーの後ろから付いていきます。

後ろから付いていきながら、なんだか3ヶ月前の自分を見ているようで、恥ずかしか
ったり、ナレーションを忘れて落ち込んだりしたときのことを思い出しました。

無事ツアーが終わり生重さんが私に近寄ります。

「どう!! うまかったでしょ?」
「はぁ、僕の最初の頃よりかは」
「違うよ、今の香取よりもうまかったでしょ!!」
「へぇっ!!今の僕よりですか?」
「そう!!うまかったね」

そう言い残して、生重さんはトレーニーと一緒に消えていきました。
正直、生重さんの言った言葉に頭にきました。だって、昨日今日入って来た新人と比
べられて、今の私より"うまかった"だなんて……。

その夜、勤務が終わると生重さんがオフィスで待っていました。
先ほどの言葉が気に食わないのもあって、生重さんにあいさつもせずオフィスを出よ
うとしたところ、生重さんが呼び止めます。

「香取!!何でシカトすんだよ!!」
「(むくれながら)あぁ、オ・ツ・カ・レ・さまでした!!」
「お前なに怒ってんだよ」
「別に怒ってないですよ!!」
「まぁここに座れよ」

気分の悪い私は、膨れっ面で言われるがままに、机の前に座ります。

「お前が怒ってんのは、さっきのことだろ!!」
「……はぁ」
「お前、さっきのトレーニーのガイド見て何か感じたことない?」
「……別に、ありませんけど」
「ハァ、そっか……」
「あのな、さっき言ったことは本心だよ。今のお前よりうまいって!!」
「今の俺のガイドを見てもないのに、そんなのわかんないじゃないですか!!」
「うん、見なくてもわかるよ」

そしてしばらく沈黙が続きます。

「このアトラクションのガイドに必要なのは、うまさなのか?」
「本当にうまい奴が必要だと思ってるのか?
 本当にうまい奴が必要なら、俺らみたいな素人にはやらせないんだよ!!」

「素人???」
「そう、俺たちはみんな演技の勉強もしたことのない素人だろ、その証拠に、エンタ
 ーテイナーのようにオーディションがあるわけでもないじゃん。でも何でそんな素
 人にたかが5日間のトレーニングでやらせるんだと思う?」

「……」

「下手でも良いからなんだよ!!」
「下手でも良い?」

「そう、このアトラクションで必要なことは、どんなに下手でも良いから"一生懸命"
 にやることなんだよ。」

正直ビックリです。だって下手で良いって……。
そんなゲストから時間もお金も取っておいて、下手でも良いってその時の私には理解
が出来ません。

「今日のトレーニーはまだ4日目、下手だったろう?
 でもな、今のお前にはない、一生懸命さがあったよね。だから、ゲストも感動して
 くれたんじゃないのかな?」
「言ってみれば、このアトラクションは作り物なんだよ、ゲストもみんなわかってる
 。でも、その作り物を本物として、一生懸命にやっている姿が、ゲストにとって面
 白いし、価値を生むんじゃないかと俺は思うよ!!」

「今のお前は、何百周もガイドを回ってきて、手を抜くところを自然と身に付けてし
 まったんだな。そんなのゲストはすぐに見破るよ!!だから面白くないし、一生懸命
 さが伝わってこないんだよ。うまくごまかそうとしているガイドなんだよな」

「……(ガァァァン)」

「香取、最初の頃を思い出してみな。下手だったお前は、何とかゲストを楽しませよ
 うと必死に一生懸命にガイドを回っていたでしょ。でもいつからか、小手先のスキ
 ル(技術)を身に付けようとして、うまくなろうとしてるだけなんだよ」

「……」

「俺たちはまだまだプロじゃない、プロに比べたら表現力や話術なんて、ぜんぜんか
 なわない。でも、一生懸命に全力ですべてのガイドを回ることは出来る。そこが今
 のお前になくて、今日のトレーニーにはあったんだな」

「うまくやろうとしなくていいんだよ、お前が最初にデビューした頃のようにいつで
 も全力で一生懸命にやるんだよ」

正直その通りでした。デビューしたての私は、何もわからずただただ、一生懸命にガ
イドを回っていました。しかし、それがいつしかうまくやってやろうとしたり、なる
べくガイドを回る回数を減らそうとしたり、最初の頃を忘れてしまったのです。

「いいか香取、これはガイドだけじゃないぞ、いつでも今目の前にいるゲストに対し
 て、一生懸命になることが大事なんだよ!! がんばれよ!!」

この話をキッカケにガイドも、それ以外のものも一生懸命にやることをいつでも実践
するようにしました。そしてそれ以降は、元通りの楽しい毎日に変わることができた
のです。

「一生懸命にやること」これがどれほど大切なことなのかを思い知った出来事でした
。もしかしたら、皆さんの中でも、一所懸命さや新鮮さを大切に思われた経験をお持
ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか……。

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