No.015「第13話:魔法使い!?」



今回のお話は、私が美装部の川本くんから聴いたお話です。

私の勤めていた、舞浜の巨大テーマパークには、スタッフが着るユニフォームのク
リーニングや補修などの管理を行う美装部というところがあります。

美装部はこのようなお仕事の他に、身だしなみなどを徹底してくれる部署でもあり
ます。言いかえると、私たちスタッフのスタイリストのようなセクションなんですね。

川本くんというのは、そこでスタッフが着たユニフォームを受け取り、新しいユニフォ
ームと交換するお仕事を担当しているスタッフでした。

スタッフが着るユニフォームの交換をするお仕事ですから、どのセクションよりも早
くユニフォーム交換カウンターをオープンさせ、どのセクションよりも遅くまで働か
なくてはならないわけです。

どんなに朝の早い時でも、川本くんは、私達がユニフォームを取替えにいくと、いつ
も笑顔で気持ち良く対応してくれます。さらにこれから現場に向かう時などは、ユニ
フォームを渡す時に必ず笑顔で「ハイ!!行ってらっしゃい。今日もがんばってね!!」
と一言添えてくれるような明るく元気な人でした。

さらに驚くことに、一日に何千人ものユニフォームを扱っているのにもかかわらず、
知らない間に私達のユニフォームのサイズまで覚えていて、サイズを言わなくても私
が来ると、すぐに私のサイズにあったユニフォームを持って来てくれます。

そんな川本くんと話をするきっかけとなったのは、私が新規トレーニングを行ってい
る時でした。

その日は、朝からあいにくの雨…。レインコートを着て現場に向かおうとトレーニー
(受講スタッフ)の方を見てみると、レインコートがツンツルテン…。(なんかおか
しいなぁ…)

実は、お城のスタッフは冬になるとコートを着ます。ご存知の方もいらっしゃると思
いますが、そのコートは黒のロングコートで丈も長いため、その上に着るレインコー
トはドレス用と言って、通常のレインコートよりも長いものでないと、コートの方が
長くなってしまいます。

私のトレーニーの着ていたレインコートは通常のもので、どうやら間違えて貸し出し
されていたんですね。

私とトレーニーは、早速レインコートをドレス用に変えてもらうために、交換カウン
ターへ向かいました。

「すみません。このレインコート間違えて貸しだされたみたいなんで、ドレス用に交
 換してもらえます?(怒)」
「あっ!!本当ですね。ごめんなさい。今すぐ専用のものと交換しますね」

(レインコートを受け取り、新しいドレス用のレインコートを取りに行く川本さん)

「ったくなぁ〜。間違えんなっつーの」
「でも、私も確認してなかったので…ごめんなさい」(トレーニー)
「良いんだよ、知らなかったんだから、美装部のヤツが悪いんだよ、来たら文句言っ
 てやるぞ!!」

「お待たせしました。すみません。新しいレインコートです」
「あのね、今度から間違えないでよね」
「はい、本当にごめんなさい。これじゃぁ、魔法使い失格ですよね」
「んっ……。ま・ほ・う・つ・か・い??」
「…いや、何でもないです。本当にすみませんでした」

その後、新しいレインコートを着て、通常通りトレーニングを開始しました。
しかし私の頭の中では川本君が言った「魔法使い」が気になります。

その日のトレーニングも終了し、着替えて外のベンチに座ってタバコを吸っていると
、そのベンチの奥に川本君を見つけました。

私はどうしても今朝のことが気になり、川本君のところへ行きました……。

「お疲れさまです」
「あっ香取さん、お疲れさまです。今朝はゴメンなさい。トレーニングの初日だって
 いうのに……」
「あぁ良いんだよ!!そんなこと、もう気にしてないから。貸し出ししたのだって、川
 本さんじゃないんだし、そんなに責任感じなくてもいいよ」
「はぁ……。でも、私たちはそれが役目だから……」

「あっそうそう、それよりさぁ今朝、魔法使いって言ってたよね?」
「(笑)あぁ……。すみませんね。つい……」
「ねえ、魔法使いってどういうことなの?」

「僕たち美装部の配役は、ステージに上がる皆さんの衣装を担当する役じゃないです
 か」
「うん……」
「実は僕が新人トレーニング時、僕のトレーナーが教えてくれたんですよ」
「……」

「僕たちが扱うものは、ユニフォームじゃないって……。皆さんがステージで着る衣
 装、コスチュームなんだよって……」
「うん……」
「言い換えると、僕ら美装部の配役はシンデレラの物語でいうと、魔法使いのおばあ
 さんなんだって!!」
「魔法使いのおばあさん!?」

「そうなんです。皆さんが上がるステージがお城の舞踏会だとすると、その舞踏会に
 ふさわしいドレスやガラスの靴を用意する、魔法使いのおばあさんなんだって!!」
「……」
「だから、いつでもシンデレラ役のスタッフに、魔法をかけてあげるんだよって……
 。僕らはステージに上がることは無いけど、そうやって魔法をかけてあげることで
 、シンデレラがより一層綺麗で、いられるように魔法を使う。それが僕たちの役な
 んだって。だから魔法をかける時には充分気をつけないといけないなぁって……」
「……」

「あぁ、香取さんゴメンなさい。変な話ですよね。もう間違えないようにがんばりま
 すから、本当にごめんなさいね」
「……。こっちこそゴメンなさい。そんなのぜんぜん気が付かなくって……」

この話を聴いたとき、私の目の前は真っ暗でした。だって今までそんな風にバックス
テージで働く人のことを考えたこともなければ、コスチュームを交換に出すときも、
「お願いします」やうけっ取った時にも「ありがとうございました」って言ったこと
すらなかったのです。

そして、この話を聴くまでの私は、言葉ではコスチュームと言っていましたが、本当
の意味を知らないままだったのです。

これをキッカケに、自分たちスタッフは、本当にシンデレラを演じきれていたのかな
って深く考えさせられました。

その後、私はトレーニングの時には欠かさず聴いた話を伝えました。そして毎日コス
チュームを交換に行く際に、魔法をかけてもらいました。
今でも川本さんのあの笑顔と「行ってらっしゃい!!」を思い出します。


2005年06月15日 00:58 |メールマガジン(バックナンバー) |コメント(0)




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