Monthly Archives: 1月 2019

「文化の輸出」

日本にディズニーランドがオープンする前に、アメリカではどんな準備がされていたでしょう?
1974年に日本へディズニーランドを誘致しようと本格的に動き始めたこのプロジェクトですから、当時のアメリカ国民の多くが、日本に対してのイメージは、侍、芸者、と言ったイメージも強くあるような時代、日本の事は知らない事だらけ……。
当然、どうしたらいいのか、色々な議論がかわされていたそうです。
ディズニーランドを違う国で初めてオープンさせるために、本国アメリカと変わらず、来場されたゲストに最幸の思い出をプレゼントするには、何をどう伝えるのがいいのか、アプローチは何から始めればいいのか、しかも働くのは自社のキャストではなく日本の会社で採用された日本人たち、ディズニー流を完璧にコピーしてもらう為にはどうするべきか……などなど試行錯誤がされていたそうです。
そんな中、チャックさんが言っていたのは、『我々は日本に、ただ単にディズニーランドと言うハードを創る為に行くのではない。我々は、日本にディズニーと言う文科を輸出するだ』と言ったそうです。
そして、日本へトレーナーとして連れて行くのは、ディズニーのスピリットを正しく理解し、それを実践できるキャストでなければならない。その為には、パートタイム、フルタイム関係なく、ふさわしい人材をトレーナーとして派遣しようと人選をしていました。
そこに抜擢されたのが、当時また大学生であったパートタイマーのデイブさんだったそうです。
デイブさんはチャックさんから、日本にカストーディアルのトレーナーとして、一緒に行かないかと話を頂いた時、そこまで長く日本に行くことは出来ないと断ったそうです。
「チャックさん、トレーナーとして日本に行けるのはすごく嬉しいですが、そこまで長い時間行くことになると、大学での単位が足りなくなるので難しいです。それに、僕はパートタイマーだし、僕よりも相応しい人がいっぱいいるじゃないですか?」
「でもねこれは大切なプロジェクトだからデイブ、君が必要なんだよ。君じゃなくちゃだめなんだよ。
よし、わかった。そしたらこうしよう、今回のプロジェクトに参加することが単位として認められればいいんだよね。」
と言って、デイブさんが通っている大学に『これはただの仕事ではなく、国家プロジェクトと変わらない』と説得し、デイブさんの単位として認めさせたそうです。
そしてそのデイブさんが、内藤さんたちのトレーナーをする事に。ずいぶんと若い人だなと思っていたのは、その為だったそうです。
そして、グランドオープン直後の朝、デイブさんとパークで一緒にお掃除をしていると、オープンして間もないレストランのテープルで、紙を広げて椅子に座りながら、アメリカ人トレーナーが日本人のキャストに何かレクチャーをしている二人を見つけます。デイブさんは、直ぐにそのアメリカ人トレーナーの元に向かい真剣な表情で何か話すと、そのアメリカ人トレーナーが苦笑いをしながら、ソーリーソーリーと言って、日本人のキャストを連れて、バックステージに消えて行きました。
戻って着たデイブさんに通訳を通して
「デイブさん、今何話してたんですか?」
すると、デイブさんは
「バットショー‼ 君たちには悪いお手本を見せてしまって申し訳ない。あれはバットショーだったから、注意したんだよ」
と、答えたそうです。
一瞬何がバットショーなのか理解できてないのがわかると、丁寧に説明してくれたそうです。
「Mr内藤。
もう、オープンしていてゲストが居るのに、オンステージのテープルと椅子に座って、何か話をしたりするはバットショーだと思わないか?
ディズニーではNOなんだ‼
僕らが提供するべきショーの中ではしてはいけない事だったんだよ。だから、バットショーだと伝えに行ったんだ。
実は僕らアメリカ人達が、トレーナーとして選ばれて、最初にやったのは本国ディズニーランドでの僕らの立ち振る舞いについて、その行動を全て洗い出したんだよ。
そして、それらの行動一つひとつを確認して、これはディズニーとしては無し、ありを決めて共有していたんだよ。
僕らはディズニーの文科を輸出してるからね」
すでに、アメリカではディズーランドがオーブンしてしばらく時間が経ち、悪い習慣もあったのでしょう。だからこそ、悪い行動はなしにして、本当にディズニーとして、どう行動すべきなのかを決めて、それを実践していこうと決めたんだそうです。
そして当時大学生だったデイブさんが、ひとまわりも歳上のマージャーにでも、きちんと注意できるのも凄いし、注意された側も素直に聞いて直していく事も凄いなぁと思いました。
これが本当のチームなんですよね‼

「さあ、ここから一緒に始めよう‼」

昨日お話したディズニーランドでカストーディアルを創ったチャックさんですが、TDLのオープン前からオープン後2年ぐらいかなぁ、指導の為に来てくれてんだそうなんですねぇ。
そして、チャックさんならではの逸話がたくさんあるみたいで、僕が大好きなお話のひとつを紹介してますね〜。
それは1983年4月15日。
その日は、TDLが晴れて(実際には雨でしたが)グランドオープンを迎える特別な記念の日でした。
オープンの1年も前から、各部署では事前の準備やトレーニングを重ねて来たそうです。この話を教えてくれた、当時僕の上司だった、内藤さんはカストーディアルの一期生として勤務してたそうです。
その日は早くから、パークの前にあるゲートでは、雨の中、今か今かとグランドオープンを楽しみに待つ大勢のゲスト。記念すべきテープカットの瞬間を伝える為に、これまた大勢のマスコミ·プレス関係者。
あいにくオープンセレモニーは雨の為に、急遽屋根のあるワールドバザール内に移動してテープカットをすることに。
テープカットにはTDLの当時の社長の高橋さん、ディズニー社の社長、そして我らがチャックさんがするとのことでしたが、オープン30分前にも関わらず、チャックさんの姿が見当たらず、無線でチャックを探せ状態に。
そんな無線を聞きながら、内藤さんも仲間と『チャックさんどうしたんだろうね〜。朝イチはオフィスに居たのにどこに行っちゃったんだろう?』と話しながらも、持ち場であるゲート前へ
ゲート前に到着すると、奥の方にカストーディアルのコスチュームを着た、少し背の低い小さな背中が、スクィーザーと言って、床の水を切って滑らないようにする機材を使って、ひたすら水を切る作業を行っている姿が見えました。
誰だろう?と、近づいて見るとっ‼
今朝オフィスでスーツ姿だったはずのチャックさんだったんです‼
すぐさま近寄り声をかけたそうです。
「チャックさん‼ 何してるんですか?
 無線でチャックさんの事を皆が探してますよ‼ それにもうすぐテープカットじゃないですか? ここの作業なら僕らでやりますから、早くセレモニーの所へ行ってください」
するとチャックさんは通訳の人を通してこう言ったそうです。
「大丈夫だよ。テープカットならそれをやるべき人が来ているだろ。僕はね、テープカットをする為にこの日本に来ているんじゃないんだよ。
君たちとこうして、日本のカストーディアルを一緒に創るために来たんだよ。
今日からが本番だよ。
さあ、ここから一緒にはじめよう‼」
そう言って、またスクィーザーを手にして、一緒に作業を始めたそうです。
そしてその日依頼、チャックさんがアメリカへ帰る日までの間、いつもコスチュームを着て現場を周り、働いている間はコスチュームを脱ぐことはなかったそうです。
良いリーダーシップのやり方や方法など、色々とありますが、改めてやり方も大切だけど、良いリーダーシップとは、リーダーのあり方の方が大切なんじゃないかな〜って思いました(^^)

「カストーディアルを創ったチャックさん」

今でこそ、お掃除は尊い仕事とされてきました。僕がお世話になったTDLでもオープン当初はお掃除をメインに行うカストーディアルと言うお仕事は、どんなに時給を良くしても、誰もやりたがらない仕事だったそうです。
どうやら、現在では人気職種の上位らしいですよ。きっとそれはオープン当初から、変わらず常にゲストの一番近くで、最幸の笑顔と親しみあふれるサービスを続けて来たことが、ゲストとして体験した人達に『あんな風に私もTDLで働きたい』って言う憧れに繋がったんじゃないかなぁと思います。
そんなカストーディアルと言う部署を創ったのは、ご存知ウォルトですが、実はチャックさんと言う、元々アニメーターだったクオーターの方が実質は創られた部署だったんです。
僕も話を聞くまでウォルトが最初から創ったんだと思っていたんです。それを教えてくれたのが、当時の上司でTDLオープン時は一期生でカストーディアルの部署にいた山津さんでした。
バックステージにあるトレーニングセンターと言う、僕らが裏で練習したり、教育を受ける場所があるんですが、ちょうど山津さんと年末のカウントダウンの計画をしてた時、ふと部屋の壁のウォルトの写真の横に同じように飾ってあるカストーディアルのコスチュームを着たおじいさんの写真が気になり聞いてみたんです。
「山津さん、あのウォルトの横のおじいさんって誰なんですかね?」
「えっ‼ 香取お前知らねえのか‼」
「ハイ、全然(笑)」
「そっかぁ〜、やっぱりカストーディアル以外の部署に居たら知らねえよな。よし、教えてやるよ。俺が今でも一番尊敬しているチャックさんの話‼」
「はぁ……。」
「実はな、ウォルトが最初にディズニーランドをロサンゼルスに創った時、全くお金が無くて、オープン初年度はお掃除のお仕事と警備のお仕事は、外注だったんだって。」
「えっ‼ 最初からあったんじゃないんすね‼」
「うん、完璧主義のウォルトは、ホントは自前でやりたかったんだよ。でも残念ながらお金が無くて出来なかった……。そしてオープンから一年経った頃、当初アニメーターだったチャックさんが呼び出されて、一緒にパークを周った後、ウォルトから『チャックどうだった?』って感想を求められたんだよ。
当然、ウォルトと仲の良かったチャックさんは、ウォルトが何が言いたいのかすぐにわかって『バークの中はゴミが落ちてて汚いし、ゴミ箱からゴミが溢れてたり、トイレが汚かったり……ウォルト、君の理想には程遠いだろ』って答えた。するとウォルトは嬉しそうに『そうなんだよ。やっぱりチャックにはわかるだな。さすがチャック。実は来年からはお掃除も警備もどんだけお金がかかっても自前でやろうと思ってるんだよ』って。
それをチャックさんは聞きながら、嫌な予感がしたんだって(笑)
そしてその予感は的中して、『そこでね、実はチャックにそのお掃除の部署を創ってもらいたくてね‼』って。もちろんチャックさん当時はアニメーター。その中でも主役は一切描かせてもらった事のない、背景画専門のアニメーターだったんだって、だからチャックさんは『ウォルト、悪い冗談はやめろよ』って言ったら、『冗談なんかじゃないよ。僕はチャックだからこそ頼んでるし、この部署をできるのはこの会社の中でもチャック以外は居ないって思ってるんだよ』って……。
チャックさんは、それを聞いて益々腹が立ったんだって‼」
「えっ、なんで腹が立つんですかね?
ウォルトから言われたら嬉しいんじゃないですかね?」
「そこなんだよ。
実は当時のアメリカではさ、お掃除はブルーワーカーの仕事で、低賃金で移民や黒人、そして老人がやるような仕事と位置付けられてたわけだよ。それをヤレってことは、ある意味左遷って受け取ったんだよね。
また、それまでのチャックさんの仕事はアニメーターとはいえ、主人公を全く描いた事のない背景画専門のアニメーターだったわけだから、ひねくれてしまうのも無理ないよね。
だからチャックさんは怒って『ウォルト、僕に絵の才能が無いのなら、正直に言ってくれ。そんな遠回しなことを言われて僕は本当に傷ついたぞ‼』ってね。
そしたらそれを聞いたウォルトは、腹を抱えて笑ったんだって。
そして『チャック、何を勘違いしてるんだよ。僕は君に絵の才能が無いなんてこれっぽっちも思ってないよ。むしろその逆で、チャックは背景画のプロフェッショナルじゃないか、だからこそこの仕事はチャックしか出来ないって思って頼んでるんだよ。
このパークは全体が大きな舞台、その中で主役のゲストが居て、その横にキャストが居る。映画のワンシーンで考えたら、その背景に何がどうあったらいいのか、その事を理解して形にできるのは、背景画のプロフェッショナルであるチャック、君以外には居ないって思ってるんだよ。
それにねチャック、僕も君も移民のクオーターじゃないか、今はお掃除はブルーワーカーの仕事で僕らのような白人以外のやる仕事ってなっているだろ。僕はその文化を変えたいんだよ。ここをきっかけに、お掃除は素晴らしい仕事のひとつで、価値のある仕事なんだと、世界中の考え方を変えたいんだよ。それもあって、君に頼んでるんだよ。』
確かにウォルトの言っている事に嘘はなさそうだって思ったんだって、でもねウォルトは口がうまいからそうして僕を乗せようとしてるんじゃないかって言う気持ちもあって、取りあえず答えを出すのに時間をくれって頼んで、そこから1週間考えたんだって。
もし、本当にウォルトが言ってるように、お掃除に対する考え方をこの仕事を通して変えられるなら魅力的だけど、好きな絵を描く事を止めてまで、やるべきなのか……。
色々悩んだ挙げ句、チャックさんはウォルトの真意を確かめようと思ったんだって‼」
「…真意…ですか」
「そう、もし自分がお掃除の部署をやるなら条件があると。やるなら本気でやってお掃除に対する考え方や文化を変えるのだから、組織の中で、お掃除の部署をウォルト(社長)の下につけるんじゃなく、ウォルトの横にして欲しいと。そうすれば、ウォルトからも意見は聞くけど命令は聞かなくてすむから。もしこの条件でもよしなら、本気でやろうと、でも逆なら潔くこの会社から身を引こうと。
そして、その条件をウォルトに告げるやいなや、『なるほど、チャック、それはイイね。そうしなければ、僕のイメージしているようなものにはならないからね。すぐやろう』と言って、組織図を書き換えたらしいんだよ。
それを見て、チャックさんは本気でやるって決めて、そこからはウォルトの意見も聞きながらだけど、理想のカストーディアルを作るべく邁進されて、現在のカストーディアルになったんだよ。」
もちろん、日本には昔からお掃除は尊い仕事で、基本中の基本と言う文化もあったと思うので、そう言った基本文化の上に、カストーディアルが入ってきてより一層受け入れられたのかも知れませんが、このチャックさんの功績も高いんじゃないかなって思います。
やっぱりディズニーイコール、カストーディアルってイメージがありますもんね(^^)